アスペルギルスはなぜ菌球を形成するか

内科外科放射線科合同カンファレンスで肺アスペルギルス症のfungus ballの画像が提示されました.花岡教授に「どうしてアスペルギルスは菌球を形成するのですか」と質問いただいたのですが,さっぱり分からず調べてみることにしました.

慢性壊死性肺アスペルギルス症の65歳男性<br> 田代隆良著,真菌誌,2015より抜粋
慢性壊死性肺アスペルギルス症の65歳男性
田代隆良著,真菌誌,2015より抜粋

アスペルギルスは自然界に広く存在し,通常は人に対して病気の原因とはなりにくい菌です.糸状菌による深在性真菌症の起因菌としては最多であり,その中でもAspergillus fumigatusは40度以上の高温でも増殖することができます.菌糸は45度に分岐し,層状の放射状菌球を形成します.

 

真菌に対する急性期の組織反応は好中球を主体とするもの(化膿性炎症)とリンパ球や組織球を主体とするもの(肉芽種性炎症)の2群に大別されます.アスペルギルス,カンジダ,ムーコルは前者,クリプトコックス,ニューモシスチスは後者となります.

若山恵ほか,Medical Mycology Journal, 2013

アスペルギルスが生体内で生き残るためには,分生子から菌糸を伸長するまでの時間を少なくとも貪食されずに生き延びることが不可欠です.①好中球が減少している場合,②好中球の遊走能や貪食能が低下している場合(糖尿病や慢性肉芽腫症,ステロイド使用),③好中球が近づけない場合(肺空洞内,種々のマトリックスで覆われている)などが挙げられます.

田代将人ほか,日本医真菌学会雑誌,2017

菌球は病理組織上,層状に増殖したアスペルギルスと,菌糸周囲に沈着する液性成分や好中球を伴う滲出物,壊死に陥った空洞壁の一部などの生体成分も含まれています.これらの菌塊から周囲に侵襲性病変を形成する場合もあります.しかし,菌塊における層状増殖はアスペルギルスに特徴的ではなく他の糸状菌やカンジダでも見られる場合があるため,菌の密度の低い部分での菌形態の観察が必須です.

蛇澤 晶ほか,日胸,2003

また,真菌は大きいため中枢部気管支に着床しやすいと考えられます.そこに菌球ができてしまうと呼気の排出が妨げられその末梢はair trappingと分泌物の貯留が起こり気管支拡張や空洞,嚢胞が形成されます(菌球によるcheck-valve作用).そこで炎症も起きるので肺組織の破壊が進み,大きくなった空洞で菌球が成長するという説もあるようです.

菌球が成長する模式図
澤崎博次著,真菌誌,1981より抜粋

 

 

 

 

そしてカンファレンスで提示されたような画像上,fungus ballとして見える所見はアスペルギルス症以外にもコクシジオイデス真菌症,放線菌症,ノカルジア症,カンジダ症,肺腺癌,結核による腔内血腫,偽アレスケリア症・セドスポリ症,エキノコックス症などで見られるそうです.

Gazzoni FF et al,Chest,2014

ここまでお付き合いいただきありがとうございました.『アスペルギルスはなぜ菌球を形成するか』を自分なりにまとめると,そもそも体内で生きにくいアスペルギルスにとって肺が破壊されてできた空洞は生息しやすい場所であること,アスペルギルスは層状の放射状菌球を形成することが画像上,fungus ballとして見えることに関連していそうです.ただアスペルギルス以外にもそのように見える菌や疾患はあるので画像のみで判断しないように注意したいと思いました.

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石田由希子

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