「今日の治療指針 2022年版」急性呼吸促迫症候群(ARDS)の項を担当しました

「今日の治療指針 2022年版」で、急性呼吸促迫症候群(ARDS)の項を執筆する機会をいただきました。現段階では基本的に、2016年に3学会(日本呼吸療法医学会、日本集中治療医学会、日本呼吸器学会)合同で作成された“ARDS診療ガイドライン 2016”に従うことを推奨しました。また、ニュートピックスとして“同診療ガイドラインの改訂作業が同3学会によって行われている”こと、“新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中に広まり、短期間で呼吸不全に至る症例があり、ARDSの一因として注目を集めた”ことを記載しました。

ARDSの治療は原因疾患への適切な治療が最も重要ですが、肺保護のための呼吸管理法として一回換気量とプラトー圧を制限する低容量換気に加え、駆動圧を低値に保つことが推奨されてきていることを記載しました。また、これまでARDS に対する薬物療法として生存率の改善に寄与できる確立したものはありませんでしたが、最近、“中等症~重症のARDS症例に対する、早期(発症3日以内)のデキサメサゾン10日間(20mg/日で5日間、その後に10mg/日で5日間)投与は、人工呼吸器使用期間と死亡率が有意に減少させた”ことが報告されました(Villar J, et al. Lancet Respir Med 8: 267-276, 2020)。さらに、“酸素投与が必要なCOVD-19の入院患者に対するデキサメサゾン6mg(内服または静注)1回/日、10日間(改善が早ければ退院日まで)の投与が、28日死亡率を有意に改善させた”ことが報告され(RECOVERY Collaborative Group; Peter Horby, et al. N Engl J Med.17: NEJMoa2021436, 2020)、COVID-19では、酸素投与が必要な時点からデキサメサゾンを使用開始することを推奨しました。当初はステロイド使用がまったく推奨されなかったCOVD-19ですが、同疾患によるARDSに対してステロイド療法が一般的に行われるようになってきました。今回のガイドライン改訂では、ARDSに対するステロイド使用の推奨度が上がる可能性があるかもしれません。

山本 洋

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