洗車趣味

はじめに

まじめな話、仕事の話は他の医局員に任せ、私は例によって趣味的な話をしたいと思う。
春から初夏にかけて花粉、黄砂が大量に飛散する。車がすぐ汚れるので私にとって大変憂鬱な季節である。私は昔から洗車が好き、というか車が汚れるのが嫌で、どれくらい嫌かというと自分のパンツが汚れるのと同じくらい嫌なのである。また車だけの問題ではなく自分自身も通年性のアレルギー性鼻炎を持病としており、特に毎年この季節は後鼻漏に伴う咳、咽頭違和感が悪化するため身体的にもつらい。しかし車が汚れているのを見過ごせず、洗車の回数を増やさなければならないため本当に煩わしい。というわけで今回は洗車の話をしたいと思う。

初めての洗車

私が初めて車を手に入れたのは大学5年生の春であった。お金のない学生時代であったので、車を所有しても維持できるのか不安で二の足を踏んでいたのだが、ちょうど知り合いが車を買い換えるタイミングで、古い車を無料で譲ってもらうことになった。かなり古い車で、元々傷だらけだった。しかも引き取った時に車全体に松ヤニが大量に付着していた。とても汚く、みすぼらしい車だったが、少しでもきれいにしようと思ったのが、洗車をしようと思ったきっかけであった。当時私は洗車の方法なんて何も知らず、かと言ってガソリンスタンドで洗車してもらうのもお金がもったいないので、水を入れたバケツと雑巾を駐車場に持って行き、雑巾でゴシゴシこすって松ヤニを落としていった。その結果細かい洗車傷(擦り傷)がたくさんついてしまい、ますますみすぼらしい車になってしまった。「あー、これはいかん。ちゃんと洗車の仕方を学ばなければ」と思った。洗車のノウハウ本を2冊買ってきて勉強した。基本的に手洗い洗車は「大量の水を使って柔らかいスポンジなどを用いて上から洗い流す」という原則があることを初めて知った。オートバックスに行き、カーシャンプー、ワックス、スポンジ、拭き上げ用のタオルなどを買い込み、コイン洗車場に乗り込んだ。見違えるようにきれいになり、細かい洗車傷もワックスである程度リカバーした。車内も掃除し、新しいマットに入れ替えた。その状態で車を譲ってくれた知り合いのところに行き、車を見せたところ大変驚かれ、「いやにきれいにしてるね。車って持つ人によって変わるんだねえ。車を譲って良かったよ。」と喜んでくれた。「洗車が人を幸せな気分にさせてくれることがあるんだ」と私も大変うれしくなり、その時から洗車道を極める洗車マニアになってしまった。故障が多発し、マニュアルトランスミッション・パワーステアリングなし・パワーウインドウなし・エアコンなし・キャブレター車という運転初心者には大変手強い車であったが、今思えば車としての寿命がつきる前に洗車・傷の補修・点検・運転のノウハウを当時の若い私にたたき込んでくれたのだと思う。

洗車の頻度

現在は基本的に1ヶ月に1回だが、特に春から初夏にかけては回数を増やす。花粉・黄砂によって汚れが激しいからであるが、梅雨入りする前にワックスがけをしておきたいという事情もある。若い時は1年中、月に2,3回手洗い洗車をしていた。今は若い時より時間が取れないからであるが、手洗い洗車という重労働を頻回に行う体力がなくなったというのもその理由である。どれくらいの頻度で洗車を行うのがベストなのかは諸説あると思う。洗いすぎると洗車傷を増やす可能性もあるし、洗車の水分がゴムパッキン等を劣化させるリスク、錆を発生させるリスクもあるだろう。かといって花粉・黄砂を放置すると塗装面を痛めてしまう。凍結防止剤がずっと付着した状態だと下回りに錆・腐蝕を発生させてしまう。個人的には1ヶ月に1回(+α)が一番バランス良いと思っている。

手洗い洗車の手順

  1. カーシャンプー、バケツを2つ(スポンジ洗車用と拭き上げ用)、スポンジ2つ(車体用とタイヤ用)、セーム革を持ってコイン洗車場に行く。
  2. コイン洗車機(高圧ジェットスプレー)にお金を入れて「水のみ」のコースを選択する。天井から水流で汚れを落としていく。ドアの隙間、トランクフードの隙間にもしっかり水流が行くようにする。コイン洗車機によっては水圧が強すぎる場合があり、噴射ノズルから30cm以上は離すことが重要である。ヘッドライトは表面のコーティングが剥離してしまうリスクがあるためなるべく直接水流を当てないようにする。タイヤホイール、タイヤハウスの中、下回り(特にマフラー付近)もしっかり洗う。最後の1分くらいでもう一度天井から水流を当てて全体を洗い流す。
  3. バケツに水を入れ、カーシャンプーを適量入れ、しっかり泡立てる。その中にスポンジを入れて大量に泡を含ませて天井から擦り洗いしていく。途中スポンジをバケツに適宜入れて泡を含ませつつ、上から下に擦り洗いを続ける。車体の擦り洗いが終わったらスポンジをタイヤ専用のものに変えて同様にタイヤホイールとタイヤを擦り洗いする。
  4. 再びコイン洗車機(高圧ジェットスプレー)にお金を入れて「水のみ」のコースを選択する。2.の手順を繰り返してカーシャンプーを完全に洗い流す。慣れれば地面に落ちた泡も残さずに洗い流すことができる。
  5. 拭き上げスペースに移動する。全てのドアを開けて強めに閉めるのを2,3回繰り返し、水切りする。バケツに水を入れ、セーム革を適宜濯ぎつつ車体全体の水分を拭き上げていく。ドア、トランクフード、ボンネット、給油口などの開口部を全て開けて水分を拭き取る。ドアについては窓を一度全開して閉めたときに付着する水分も拭き上げる。エンジンルームの汚れも拭き取る。
  6. 車内清掃を行う。
    これが大まかな洗車の手順である。ここまでで約1時間である。もっと本格的に洗車している人は、最初にタイヤを鉄粉除去剤等の専用のケミカルを使って洗うようだが、時間・労力と得られる効果を考えて私は上記のような手順で行っている。幸い国産車なので元々ブレーキダストが少なく、1回の洗車につき2回高圧ジェットスプレーを使用するためタイヤ周りの汚れも十分落ちてくれる。そもそもタイヤホイールを買う時にその後のメンテナンス性を考えて洗いやすいものを選んでいる。毎回ではないが、水洗いが終わった後にワックスがけ、飛び石傷の補修、フロントガラスの撥水剤の塗布などを行う時がある。車体全体にワックスがけをするとさらに約1時間かかるが、年に3, 4回ほど行っている。飛び石傷が一番やっかいで、車が走っている以上避けられない。鉄板が露出している時はタッチペンで補修する。錆の発生が疑われる時は黒錆転換剤を塗布して数日乾燥させた後にタッチペンで補修する。水洗いが終わって拭き上げたときに車体を触って表面がざらついているようだと鉄粉が付着しているためワックスをかける前にセラミック粘土を使って鉄粉除去を行うことがある。どうしても落とせない汚れがあるときはコンパウンドを使って磨くこともある(塗装面を削ることになるので最低限にする)。セラミック粘土・コンパウンドを使った後は必ずワックスを塗布して塗装面を保護する。

    これらの作業が終了したら、最後に点検を行う。タイヤの点検(スリップサイン・サイドウォールのひび割れ等の外観チェック、空気圧測定・調節)、エンジンルームの油脂類の量のチェックなどを行っている。

アメリカでの洗車

2006年秋から2008年秋にかけて私はアメリカに留学した。コロラド州デンバーおよびバージニア州リッチモンドだったが、一般的にアメリカでは車がないと生活が困難である。自動車の運転免許を取得し、現地で車を所有した。前任者の花岡教授から引き継がせていただいたトヨタのマトリックスという車であった。最初洗車をどうしたら良いのかわからなかったが、アメリカにもコイン洗車場があることがわかった。ただし日本のコイン洗車場と流儀が違うし、高圧ジェットスプレーの動かし方もわからず、しばらく他人が洗車しているところを観察した。すると外国人が近づいてきて「どうしたんだ?」と聞いてきた。「洗車機の動かし方を知りたくて今見ている。」と言うと何やら説明してくれたのだが、その後チップを要求された。チップを払うくらいなら説明なんていらないのだが、アメリカではこういうことがよくある。親切なふりをして近づいてくる人には要注意である。ただしチップなど要求しない本当に親切な人もたくさんいて、日本人よりも明らかにその割合が高い。慣れるとチップを要求してくる人と本当に親切な人を見分けることができるようになるが、あえてここではその方法を書かないことにする。

話が脱線したが、アメリカのコイン洗車場について述べてみたい。まず日本とはスケールが違う。ブースの数が多いし、一つのブースが大きく、屋根がついている。従って日本の洗車場のように隣のブースから水がかかったりすることはない。料金は忘れてしまったが、日本の水準とほぼ同じであった。高圧ジェットスプレーの水圧が半端なく高く、油断するとノズルが「暴れる」。モップのようなものが常備されており、まわりのアメリカ人のやり方を見ていると、高圧ジェットスプレーの洗剤が出るコースを選んで、中断しつつ備え付けのモップでゴシゴシ擦り洗いをしている人が多かった。混むときは一つのブースごとに車が並ぶので、後ろに車がいると焦るが、大雪が降った後以外はいつも空いていた。拭き上げスペースは広大で、日本の洗車場のように場所の取り合いにはならない。こう書くと良いことずくめのようだが、一つ決定的な弱点があった。日本の洗車場のように水道がないのである。私は日本にいる時と同じ手順で洗車していたが、水道がないとバケツに水を汲んでくることができず、スポンジ洗車ができない。拭き上げの時にセーム革を濯げない。かといってどこの誰がどのように使ったかわからない備え付けのモップを使うなんて論外であった。高圧ジェットスプレーの水をバケツに入れることは可能であったが、水圧が高すぎてなかなか難しく、冬は水が冷たすぎるのであった。そこで私は自宅でバケツにお湯を入れて洗車場に行っていた。水道がない理由は不明だが、水泥棒が来るからではないかと推測している(日本の洗車場にも一切お金を使わず、水道の水だけ使っていく輩が少なからずいる)。この点さえクリアできればアメリカの洗車場はとても快適だった。

アメリカの道路を走っていると道路上の異物、アスファルトの剥がれが明らかに多く、飛び石傷の処置が大変だった。しかしアメリカにも自動車用品店がたくさんあり、日本と同じように洗車グッズ、ワックス、セラミック粘土、コンパウンド、タッチペン等の補修用品が手に入った。アメリカで使っていたワックスが非常に秀逸であった。家族に驚かれるくらい艶と深みが出るし、しかも塗りやすく、耐久性も良好であった。今でも使いたいが、不覚にも商品名を忘れてしまった。

洗車場に行く時間には気を遣った。アメリカの貧富の格差は日本の比ではなく、治安も悪い。しかも銃社会である。洗車場に限った話ではなく、ガソリンスタンドとかもそうだが、夜行くのはやめた方が良い。貧困層から見ると「車を持っている=お金を持っている」であるから、もし銃を向けられたらどうしようもない。バージニア州リッチモンドは全米でもかなり治安が悪い地域であったので、「ガソリンスタンドにもしどうしても夜行く必要がある時は、財布は持たず、自動車運転免許とクレジットカード一枚だけを持って行き、それとは別に20ドル札をポケットに入れていきなさい。もし強盗が来たら20ドル札を渡せば許してくれることが多い。」などと言われていた。そんな状況であるから夜洗車場に行ってはならないのである。私は日本ではしばしば夜洗車場に行くのだが、日本の治安の良さに完全に甘えているのである。しかし今後治安が悪くなってくると考え直さないといけないかも知れない。そうならないことを祈りたい。

洗車ビジネス

「洗車が趣味です」というとしばしば「じゃあ、私の車を洗ってよ」と言われることがあるが、基本的にお断りしている。上記のごとく手洗い洗車はかなりの重労働であり、他人の車を洗っている余裕がない。最近は自分の車すら洗えない時があり、たまにガソリンスタンドに手洗い洗車をしてもらうこともあるのでなおさらである。車に対する愛情がないととてもじゃないができないし、もし他人の車を洗うならそれ相応の報酬が欲しい。この特技(?)を生かして洗車ビジネスをはじめたらどうかと考えたことがある。世の中には同じことを考えている人がいるようで、昔「マネーの虎」というテレビ番組があり、志願者が洗車ビジネスのプレゼンテーションをして出資者(マネーの虎たち)に支援を訴えていたが、全く理解されずにこき下ろされ、ノーマネーでフィニッシュしていた(この言い回しは番組を見ていた人にとって馴染みがあろう)。手洗い洗車はニッチな市場であり、理解されないのは仕方がなかったと思う。しかしうまくいけば富裕層向けのビジネスとして成立するかも知れない。

最後に

最近は自分で洗車する人は減っているようで、コイン洗車場も減ってきている。いつも同じ洗車場で見かける人がいて、そのうち知り合いになり、車や洗車について情報交換する「洗車友達」もかつて存在したが、今はそのようなことは皆無である。車に興味を持つ人が少なくなったこと、車の塗装の耐久性が高くなりガソリンスタンドの自動洗車機で事足りるようになったこと、背の高いミニバンが多くなり物理的に手洗い洗車が難しくなったことが理由として挙げられるだろう。しかし上記のごとく洗車が人を幸せな気分にさせてくれることがあるし、いつまでも車がきれいなのは気分が良く、売却時の下取り額もアップする。おまけに良い運動にもなるので一石二鳥である。とは言うものの私も若い頃のようには車をいじくっている時間が取れなくなった。幾分くたびれた自分の車を見ると「昔はこんなことはなかったのに」と思うことがあるが、無理のない範囲でやっていきたいと思う。

北口 良晃

アメリカで乗っていた車と洗車場
アメリカで乗っていた車と洗車場

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