植物栽培(園芸)趣味

はじめに

新型コロナウイルス感染症がますます拡大し、呼吸器・感染症・アレルギー内科である当科としても最先端の医療を提供することを使命と心得て、一丸となって対応に当たらせていただく所存である。悲しいニュースも多く、神妙にならざるを得ない毎日であるが、こんな時こそ自身の体調を整えるのはもちろんのこと精神的な恒常性を保つために息抜きが必要である。こんな時に不謹慎と思われる向きもあるかも知れないが、例によって私は息抜きに必要な趣味的なことを書きたいと思う。このコロナ禍を乗り越えるために外出しなくても楽しめるようなインドアな趣味について述べていきたいと思う。ご容赦いただきたい。

私が今まで経験したインドアな趣味と言えば、鉄道模型、パソコン、読書、昆虫飼育、植物栽培(園芸)などである。このうち現在進行形で続けているのは鉄道模型のみである。今回はすでにやめてしまった趣味であるが、植物栽培(園芸)について書いてみたい。このご時世にこんなくだらないことを書いて恐縮であるが、もし興味を持っていただける方がいたら幸いである。植物栽培(園芸)は今風に言うとガーデニングという言葉が該当すると思われ、直訳すれば「庭作り」であろうか。庭作りなら屋外で行うので厳密な意味ではインドアではない。ただし「自宅を離れないで行える」という意味では紛れもなくインドアな趣味である。なお屋内で植物を栽培する文字通りのインドアガーデニングという範疇も存在するようである。

私にとっての植物栽培(園芸)のはじまり

小学校1年生の時に小学校の教育カリキュラムで「アサガオの栽培」というのがあった。同様に2年生はヒマワリ、3年生はヘチマであった。各自、プランターや校庭で栽培して観察日記などを付けるのである。私はつる性の植物が好きで、1年生のアサガオの栽培が終了しても種子を収穫して毎年自宅に植えていた。それが植物栽培のはじまりであった。3年生のヘチマも気に入り、毎年植えていた。私は一人で花屋やホームセンターに行って植物を眺める変なガキであったので、他にも気に入った植物の種子や球根を買ってきて栽培した。育てたことがあるのはアサガオ、ヘチマ、ヒョウタン、ホウセンカ、ダリア、ヒヤシンス、チューリップ、小松菜などである。両親に「植物を栽培したい」と言うと喜んで準備してくれた。アサガオ、ヘチマ、ヒョウタンはつる植物のために軒先にぶら下げるネットが必要で、他にも植物用の腐葉土などが必要であった。自宅は借家であったが、なぜか植木鉢が大量に残されておりそれも私には好都合であった。

アサガオ

私の植物栽培趣味の原点であるアサガオであるが、非常に強い植物で、水さえ与えておけば嫌というほど成長する。たくさん花が付き、大量に種子が取れる。本気で種子を全て収穫する人は少ないと思うが、私は小学校2年生の時にやってみたことがある。多数の株を栽培しており、数え切れないくらいの種子を収穫した。その量たるや、贈答用のお菓子の箱がいっぱいになるくらいで、翌年その大量の種子の扱いに困ったのは言うまでもない。捨てるのも忍びないので、春先に庭中に花咲か爺さんのように種子を大量に蒔いてしまった。その結果、庭中アサガオだらけになってしまった。飼い犬が踏みつぶしてしまったり、つる植物なので庭を這うように成長してしまったり、かわいそうなことをしたと思う。翌年からは必要な分だけ収穫するようにした。中学校2年生になるまで毎年栽培しており、都合8年間栽培したことになる。「アサガオの花を見ると落ち着く」くらい好きだったのだが、栽培をやめたのは、中学校3年生ともなると受験勉強をする必要があり、仕方なく趣味を大幅に粛正したからである。もし今後植物栽培(園芸)趣味を再開するならアサガオからと思っている。

ヘチマ

小学校3年生のときにヘチマを学校で栽培したが、自宅でも同時に栽培したのがはじまりである。自宅に転がっていた最も大きな植木鉢に苗を植えた。腐葉土も新しいものを入れて大事に栽培した。ヘチマは成長が早く、1日に10cm近く伸びることもあり毎日観察するのが楽しかった。雄花と雌花によって他家受粉することから教材として優れているのだが、アサガオのように嫌というほど勝手に種子が取れるわけではなく、私としても興味深かった。雌花が最初に咲いた時は大喜びであった。このときのヘチマはなぜか最初の雌花以外に雌花が咲かず、その後雄花ばかり咲いた。当然ヘチマの果実は1個しかできず不思議だった。「もっと雌花が咲いてヘチマの実がたくさんできれば良いのに」と思った。なぜそのようになったのかわからず母に聞いたところ「鉢植えだと栄養が少ないから1個しか実を付けないんじゃない?」と言われ、妙に納得した。ところが秋になると雌花が一斉に咲き出した。もう時期的に果実は期待できない状況でありそのまま枯死した。おそらく雄花と雌花が咲く数というのはあらかじめ決まっており、ヘチマ自身がコントロールしているようだった。

そこで翌年は鉢植えはやめて、地植えすることにした。私が住んでいた地域の土壌は粘土質で、とてもヘチマの成長に必要な栄養素があるようには思えなかったので、自分で「客土工事」を行うことにした。前年に使用した植木鉢と同じくらいの容積の穴をスコップで掘り、花屋で買ってきた腐葉土を満たし、そこに苗を植えた。成長のスピードは前年とあまり変わらなかったが、雄花と雌花が同時に咲くようになった。おかげで複数のヘチマの実がつき、大喜びだった。栄養素の量の問題なのか、根を張ることができる容積の問題なのかは不明であったが、「ヘチマって賢い」と思った。こんなことは植物学者の間では常識なのかも知れないが、ヘチマの雌花が同時に複数咲くスイッチはどのあたりにあるのか研究してみたらおもしろいと思った。

植物実験

植物で実験することもあった。生物を粗末に扱い不快な思いをされる方もいるかも知れないが、倫理の概念のない子供がやったことなので、お許しいただきたい。その中でも今でも良く覚えている3つを紹介したい。

アサガオの種子が大量に取れて困ったのは上記のごとくだが、余った種子をカッターナイフで割って植えてみたらどうなるのかやってみたことがある。アサガオの種子は三日月のような形をしているが、基本的に芽が出てくる部分、いわゆる「へそ」の部分を残して縦切り、横切りその他、様々な形で切り、植えてみた。うまくいくと双葉(子葉)が一枚になったり、子葉の面積が半分くらいになったりした。その後の成長スピードは普通と変わらないようであった。種をさらに小さく切って植えるとどうなるのか、成長のスピードはどうなるのか調べるとおもしろいかも知れない。

チューリップはご存知の通り秋に球根を植えて、春に花が咲く植物である。では球根を春に植えたらどうなるのか、夏や秋に花が咲くのか実際にやってみたことがある。春に植えても普通に発芽し成長するのだが、残念ながら花がつかなかった。葉っぱのお化けのようなものができあがってしまい、悪いことをしてしまったと思った。なぜ冬をまたがないと花が咲かないのか私はわからない。冬でも温暖な地域ではどうなのか、どれくらい最低気温でどれくらいの期間気温が下がれば花が咲くのか興味深いところである。

小学校5年生の秋、父親が「もう秋だからヘチマ、アサガオは切って終わりにしなさい。」と言い、植木鋏を持ってきて根元付近で幹を切断してしまった。このまま放置すると当然枯死するが、(父親がいなくなってから)私はビール瓶を持ってきて、その中に水を満たして、切断された部位から上部のヘチマの幹を入れた。水分だけでどれくらい生きるのか試してみたかったのである。それから1ヶ月は生きていたように思う。寒くなって完全に枯死してからヘチマの幹をビール瓶からとり出すと切断部位から立派な根が生えていた。植物の生命力、再生能には驚かされた。ヘチマ以外の植物ではどうなのか、再生した根は元々の根と同じ機能を持つのか興味深いところである。この再生能を医学に役立てることはできないかとも思う。

ホウセンヘビ

皆様は植物が目の前で動いているところを見たことがあるだろうか。私は「ある」。オジギソウが触られると葉を閉じるとか、食虫植物が捕虫対象を葉ではさむとか、そういうレベルではなく、全体がうねうねと動いているのを見たことがある。

小学校3年生の時に植物図鑑を見ていてホウセンカに興味を持った。果実から種子がはじけ飛ぶのを見てみたかったのである。種子を近所の花屋で買ってきて、シャーレに水を入れて種子をいくつか投入した。発芽して芽吹きが良いものを庭に植えて、残りは捨てるつもりで放置した。せっかく発芽して双葉になっているのに、放置したらシャーレの水が蒸発してなくなってしまうので乾燥して枯れると思われた。ところがそうではなかった。子葉が落ちてしまいY字型の茎の部分だけ残ったのだが、ある時その茎がヘビか尺取り虫のように動いているのを発見した。この現象は植物学者の間では常識なのかも知れないが、私はひっくり返るほど驚いた。気持ち悪くなってシャーレごと捨ててしまったのだが、私は「ホウセンヘビ」と勝手に名付けた。その日の日記にこのことを書いたところ担任の先生は「きっと生命力が強いのでしょうね。」とコメントしてくれた。いつか再現実験をしてみたいし、栄養分を与えれば成長するのか試してみたい。しかしホウセンカがかわいそうなので二の足を踏んでいる。なお「そのようなものを成長させてなんになるんだ?」という質問は一切受け付けないのであしからずご了承いただきたい。

植物栽培(園芸)と食について

私が小学生をやっていたのは昭和時代であった。貧しいガキどもが集まって戸外で遊ぶとろくなことをしないのであった。近所の公園に野いちご(ヘビイチゴ)がたくさん生えているポイントがあり、実がなっている時に片っ端から食べたり、渋柿ではない食べられる柿の実を食べたり、ツツジの花が咲くと蜜を吸ったりしていた。ガキ同士の口コミで「これは食べても大丈夫」という情報があったからできたのであるが、今考えるとそこら辺にあるものを口にするなど大変危険なことで、良い子の皆様は絶対にやめて欲しい。

ツツジの花を取って雄しべ、雌しべ、がくの部分を取り除き、ラッパのように花ビラの根元をくわえて思いっきり吸い込むとわずかな甘い蜜を吸うことができるのであるが、片っ端から吸いまくってツツジの花を全部ダメにしたりした。ある時祖父の家でいつものようにツツジの蜜を吸っていたらなぜか苦い味がした。2,3日前に農薬をまいたことが後になって判明した。幸い体調に変化はなかった。

当然ながら植物と食は切っても切れない関係があり、それは植物栽培(園芸)趣味においても同様である。時々ホームセンターの園芸コーナーを見ると、キュウリ、ナス、ビーマン、プチトマト、ゴーヤ等食べられる植物ばかり売っている印象である。かつて売っていたヘチマを見かけず、やはり花より団子なのであろう。何となく動機が不純な印象だが「食べられる果実を収穫するために植物を育てる」というのは植物栽培(園芸)趣味の立派な動機づけだと思う。食べられる植物なら私も小松菜を育てたことがある、何かの本の付録に小松菜の種子が付いていたので植えたのだが、小学生の私にはおいしいと思えず、その後は続かなかった。

最後に

以上、私にとって昔の趣味である植物栽培(園芸)についての記録・回想である。上記のごとく様々な植物に関する疑問点があるが、一つでもご存知の方がいらっしゃったら御教示いただけたらと思う。

北口良晃

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