Drazen’s Dozen
Drazen’s Dozenとはかの有名なNew England Journal of Medicine(以下、NEJM)に2019年5月に掲載された寄稿文である。6月の某医学系ポータルサイトでこのような記事が載っていることを知り、目を通してみた。Dear Readerで始まるこの記事は、2000年から19年にわたってNEJMのEditor-in-chiefを勤めたJeffrey M. Drazen (M.D.)による、“My curated choice of practice-changing and lifesaving papers from the past 19 years.”(原文のまま) である。
Drazenは12編の論文を精選しているが、このDear reader内で特にコメントしている3つの論文がある。そのトップでコメントされているのが、Colonoscopic Polypectomy and Long-Term Prevention of Colorectal-Cancer Deaths である。2012年に掲載されたこの論文は、今では当然のように行われている、大腸癌の前がん病変である腺腫を大腸内視鏡によってポリペクトミーすることが大腸癌による死亡を減らすと言うものである。この論文では、ポリペクトミーによって大腸癌死を53%抑制したという。
次に述べられているのは、A Randomized Trial of Intraarterial Treatment for Acute Ischemic Stroke である。発症6時間以内の動脈内治療は有効であり、日常生活における自立性を向上するというものである。Drazen自身もこの治療の恩恵にあずかったと述べている(leading high functional livesと記載されている)。
3つめが、Sofosbuvir and Velpatasvir for HCV Genotype 1, 2, 4, 5, and 6 Infection である。2015年12月に掲載されたこの論文は、一日一回の治療薬の組み合わせ(エプクルーサ®配合錠として本邦でも発売されている)により高率なウイルス抑制効果が達成され、肝臓癌と死亡のリスクを大いに減らすとした論文である。費用を払えることと治療を受けられることが問題であると書かれているが、保険制度が確立された本法ではこの恩恵にあずかること大であろう。
Drazenは締めくくりに、私は2000年初頭にこのような治療の向上のいくつかは想定できなかったものだと記載している。臨床医が日常行っている診療は目の前の患者を救うことであるが、探究心を持つ臨床医により追究される研究成果は医学の進歩となり、目の前の自分の患者ではないが多くの人類の生命維持やQOLの向上に資することとなる。
これまで連綿と続いてきた医学の進歩とこれからも続いて行くであろう医学の進歩は、このような日々の診療と探求の集大成であることを改めて感じた次第である。
令和元年8月24日 安尾 将法