読書

北口良晃先生にご指導いただき、COPD患者さんのCT画像解析によるフェノタイプ分類と、呼吸インピーダンスを含む肺機能との検討を行う研究に従事させていただきました。
呼吸インピーダンス(Z)はZ=呼吸抵抗+呼吸リアクタンスという式で表されます。
小さな振動を胸郭に与え、それにより生じる気流と圧の変化を計測する、強制オシレーション法を用いますが、インピーダンスは当然目にみえず、直接測定することが困難なこともあり、今も自分の解釈が合っているのか自問自答するところが多いですし、北口先生にご指導いただきながら論文化させていただく過程でも大いに悩み、学位審査当日も、そして今日も悩んでいます。

若冲」(澤田瞳子著、文春文庫)という本を、この研究が一番大変であった時期に、良く読んでいました。
京都にある青物問屋の息子が絵師を目指し、知己である相国寺の和尚から老子の一説から引用した「若冲(空っぽ、役割がない)」という居士号を授けられ、ライバル絵師との競い合いなどありながら、大成していく生涯が書かれており、美術のことがわからない私にも読みやすい内容でした。

若冲は、鶏や、野菜など身近にある素朴なものをモチーフにして良く観察し、「これが、鶏である」とリアルな絵を描いたり、大根の足がねじ曲がっているところから、お釈迦様が横になっているところを想像し、「果蔬涅槃図」を描くなど、身近な一見無用(≓若冲)なものから、その面白さを見出します。繰り返し身近なテーマで絵を描く内に、点描画から、一つ一つの点を大きくしたら面白いと発想するに至り、有名なフラスコ画(鳥獣花木図屏風)を晩年に描いています。
私は美術については全く無学ですが、おそらく和尚からもらった居子号が意味するところを良く自問自答し続けた結果なのだろうと愚考しました。分野・時代が違っても、対象とするものを客観的に観察し、謙虚にその意義を考える繰り返しの中で、今の私と似たようなことで悩んでいたのではないかと励まされたような気分になり、気を取り直して研究、インピーダンスおよびCT画像解析について再び悩みに戻ったことが今では懐かしい思い出です。
指導医の北口先生からよく読書するように教わりましたが、研究が大変な時期に少し間をおいて、読書してみることも大切だと良くわかりました。

大盈若沖、其用不窮 (大きくて満ちたものはまるで空っぽのようであるが、それでいてその役割はつきることがない) ~老子第45章~
(読み方:だいえいははかなきごときも、そのようはきわまらず)

今年も積極的に肺機能検査に参加して、インピーダンスの測定とに努めようと思います。

和田洋典

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