私の自動車遍歴および自動車点検の勧め

初めて私が自動車を所有したのは大学5年生の時だった。最初の車は知己からタダで譲ってもらったのだが、昭和60年式で、当時すでに11年落ちでありかなり古かった。いわゆる旧車の部類に近かった。パワーステアリングなし、マニュアルトランスミッション、エアコンなし、パワーウインドなしという初心者には大変手強い車であった。両手でしっかりハンドルを握って回さなければいけなかったし、ETCがない時代であり高速道路の料金所では窓を手動で開け閉めしながらギヤチェンジして加速しなければならず忙しかった。クラッチが非常に重く、車庫入れはハンドル操作とクラッチ操作で初心者には地獄のように大変だった。若かったので保険料等の維持費が高く経済的に大変だった。しかし車が手に入ったことがうれしかった。生来の乗り物好きであり、とにかく走るのが楽しく無駄に走り回った。特にパートタイム4輪駆動でデフロックされるため雪道の走破性は抜群であり、大雪が降ると最終勝者のようになって喜んで走り回っていた。5速にギヤを入れてアクセルをベタ踏みすると高速道路では人に言えないようなスピードが出た。特殊な形態のエンジンで、そのサウンドが心地よく独特の振動が楽しかった。

しかし走行距離がすでに11万キロに達していたためか、乗り始めてからトラブルの連続であった。2回路上で立ち往生したことがある。1回目は乗り始めて1,2ヶ月経った頃、国体道路を南に向かって走っていて、西友元町店の手前のガソリンスタンドに差し掛かったところで、渋滞にさしかかりクラッチを踏んで停車しようとしたときにクラッチワイヤーが「ブチッ」という音を立てて切れた。元々クラッチペダルが非常に重く左足が筋肉痛になるほどであり、その1週間前にこの車の製造メーカーのディーラーに見てもらっていた。散々待たされた挙げ句、どう見ても整備担当ではない人(背広を着ていた)が出てきて「こんなの古くなると普通ですよ。」と言われ、何もせず帰ってきたのだが、この有様であった。とりあえず路肩に寄せて停車しJAFを呼んだ。自宅近くの沢村自動車整備工場まで牽引していただき、クラッチワイヤーを交換したところ今までがうそのようにクラッチペダルが軽くなり、格段に運転が楽になった。どうやらクラッチワイヤーが全体的に錆びていたため滑りが極端に悪くなりクラッチペダルが重くなった上に、頻回のクラッチ操作の負荷に耐えきれずに切れたのだった。運転初心者でもわかるくらいクラッチペダルが重かったのに「こんなの古くなると普通ですよ。」と言い切ってしまうのはいかがなものかと思う。

2回目は寒い日であった。元々キャブレターの調子が悪いのか、特に寒い日のアイドリング不調が目立っていた。他の同型車のオーナーにも話を聞いたが、私の車は特に症状が強いようであった。手動チョークを使って最低10分間暖機運転を行えばアイドリングが少し安定し走ることはできるのだが、このときはチョークレバーを戻し忘れて走り始めてしまった。選りに選って旭町小学校のT字の交差点を左折して国道に出る途中でエンストした。エンジンの再始動ができず、咄嗟にギヤをローにつないで、イグニッションキーでセルモーターを回しながら、ハンドルを必死に回し交差点を脱出し路肩に寄せたが、狭い国道で交通量も多く、多大な迷惑をかけてしまった。何が起きたかその時はわからず、JAFを呼び待機していたところ、しばらくしてエンジンがかかった。おそらくチョークレバーを戻し忘れ、点火プラグが煤でかぶってしまい火花が飛ばなくなりエンストしたものと思われた。これは私がチョークレバーを戻し忘れたのが原因であり、故障ではないが、アイドリング不調は大問題で、友達から「こんなに調子の悪い車、初めて見た」と言われる始末であった。いつしか「超ポンコツ」というあだ名がついた。

エンジンオイルが漏れたこともあった。何気なくエンジンルームを開け、オイルレベルゲージを引いたところ、かろうじて下限くらいであった。「あれっ?」と思ったが、前オーナーがエンジンオイルを前回いつ交換したのか不明だったし、「この際オイルを入れ替えてしまおう」と思った。イエローハット並柳店に行きオイル交換を頼んだところピットクルーに呼び出された。「オイルが漏れています。すぐに整備工場で点検してもらった方が良いです。」と言われた。とりあえずその時はオイルを上限まで入れてもらいその足で例のディーラーに行った。今度はそのディーラーの整備工場の人が見てくれたが、「古くなるとエンジンからオイルがにじむことがあるんだよね。こんなの古くなると当たり前だから直さなくても良いよ。もし完全に直すとエンジンを下ろさなければならないので8万円くらいかかるよ。」などとタメ口で言われ、何もせず帰ってきた。しかしそれからもオイル漏れは止まらず、沢村自動車整備工場に行ったところエンジンを一目見て「エンジンオイルパッキンがダメになっています。交換すれば治ります。そんなに高額になりません。」と即座に診断してくれた。修理代は8千円であった。その日以来ピタッとオイル漏れは止まった。今考えると例のディーラーの人はエンジンの下を全くチェックせず、オイルパン底面に垂れたオイルを見なかったので正確に診断できるわけがなかったのだ。「オイルがにじむ」なんてレベルではないことは一目瞭然だったはずである。

その他にも故障が多く、雨の日にワイパーが動かなくなったり、時々方向指示器(ウインカー)が点灯はするのだが、点滅しなくなったりした。方向指示器については懲りもせずに例のディーラーに行き、見てもらったが、散々待たされた挙げ句、受付の女性に「フラッシャーの故障で、交換を要します。凄く高くなりますが、見積もりますか?」などと言われた。何もせずに帰り、ウインカーが点滅していない時はウインカーレバーを手動で上げ下げして点滅させた。ますます運転が忙しくなった。最後はある程度走行するとアクセルを踏んでいないのにもかかわらずエンジンの回転数が勝手に上がるようになった。クラッチを踏めばエンジンの動力が切れるので事故にはならないが、エンジン全開の状態が続いたりした。この調子ではガソリンがいくらあっても足りず、ついに廃車することを決心した。実働12年間で、最後の1年間だけ私と縁があったが、この車のおかげで車の構造を勉強することができ、点検する癖がついた。点検するついで手洗い洗車をしていたので手洗い洗車・車磨きのノウハウを得ることができた。錆びや傷の補修も自分で試行錯誤しながらやることができた。良い実験台であった。パワーステアリングなし、マニュアルトランスミッションの車の運転ができるようになり、車庫入れが鍛えられて楽にできるようになった。現在でも私はなるべく手洗い洗車を行い、定期的にエンジンルームをチェックし、タイヤの空気圧の点検・調節を自分で行っているが、この最初の車が故障知らずのメンテナンスフリーの車であったなら、こうはなっていないと思う。上記のごとくディーラーの対応は非常に悪く、今考えても腹立たしいが、車をくれた知己と車には大変感謝している。

1台目の車は本当に故障が多かったが、構造が単純でブラックボックスではなく、何が起きているか理解するのが簡単だった。教材としては最高の車であった。車を自分で運転している、操縦しているという実感があった。「週末はなんとなく車をいじってます」という昭和の車好き親父を体現できる車であった。超ポンコツであったが、「できの悪い子ほどかわいい」というのは自動車にも当てはまるのかも知れない。これこそ旧車の良さだと思う。あれだけ故障すると仕事に差し支えるので今は無理だがまた旧車に乗ってみたいと思う。もし宝くじでも当たったらセカンドカーとして旧車を所有したいと思う。昔見た「西部警察」という刑事もののドラマの影響で古い日産車に興味があり、街で古いセドリックなどを見かけるとつい見とれてしまう。「西部警察」では爆破・横転しまくっていたセドリックを私が大事にしてあげたいと思うが、いつになることやらわからない。

2台目の車は、兄が自動車会社のディーラーに勤めており、下取り車を現状渡しで売ってもらった。6年落ちの平成3年式のトヨタカムリで、28万円であった。何台か候補はあったが、「一番安い」という理由で選んだ車だった。パワーステアリング、パワーウインド、エアコンはもちろん装備しており、AT車であった。当時でも当たり前の装備だったが燃料噴射装置(EFI)が付いており、チョークレバーを操作する必要もなくなった。本当によくできた車で、故障知らずのメンテナンスフリーであった。運転は格段に楽になり運転中暇で眠くなるくらいであった。バブル期に設計されただけあって内装は豪華で、「これは夢の車か?」と思った。このトヨタカムリには5年間乗り、3台目の車は平成13年式のトヨタクラウンで、新車で購入して12年乗ったが、最後まで故障知らずであった。

2台目以降は新しい世代の車であり、メンテナンスフリーだが、1台目の時の癖で引き続き点検は行っており、3回自分で故障を未然に発見したことがある。1回目は某量販店でATフルードを交換した直後に、いつも止めている駐車スペースにオイルがにじんでいるのを発見した。すぐに沢村自動車整備工場に行ったところ「ATフルードのドレーンプラグが緩んでいました。締め直したので治ると思います。」とのことであった。その通り完治した。2回目はオイル交換をした直後に、いつも止めている駐車スペースにオイルがにじんでいるのを発見した。ディーラーにて再点検してもらったところ、オイルフィルター交換時の組み付け不良とのことであった。3回目は洗車の後、タイヤの空気圧が1本だけ低いことを発見した。他のタイヤは220kPaで右後ろのタイヤだけ170kPaであった。すぐにディーラーにて点検してもらったところタイヤ自体には問題なく、バルブの虫ゴムが劣化して空気が漏れたとのことであった。虫ゴムを交換し完治した。これら3回の故障は未然に発見でき、大事に至らなかったが、もしそのまま見過ごしていたら走行不能になるところであった。

メンテナンスフリーの新型車でもこのようなトラブルはあり得る。私は自動車に詳しくない人、興味がない人に自動車の整備について聞かれた時は「タイヤの空気圧とエンジンオイル交換の管理はしっかり行い(あるいはやってもらい)、後は1年点検、車検時にプロに任せると良いです。」と言っている。特に夏から秋、秋から冬になり寒くなるときはタイヤの空気圧が大幅に下がるので、最低でも1ヶ月に1回は空気圧をチェックし調節すべきである。エンジンオイルの交換周期は諸説あり、走行状態やターボチャージャーの有無などで異なるが、個人的には最低6ヶ月に1回は交換が必要と思う。オイル管理の悪い車はエンジン内部にスラッジが堆積して長持ちしないし、プロが見ればすぐわかる。今はディーラーで新車を買うと6ヶ月毎の整備・点検までパッケージされているプランがあり、それに任せるのも良いだろう。要は安心して任せられるプロを見つけ、整備・点検をサボらなければ良いのである。私の1台目の車の某ディーラーのようにプロとは思えないようなところに任せてはいけない(今は改善されたかも知れないが)。車を相棒ととらえるか、道具ととらえるか人それぞれだろうが、故障すると困るのは皆同じである。仕事に差し支える可能性がある。家族を待たせてしまう可能性がある。事故を誘発する可能性がある。私は「自動車の整備費は後で返ってくるもの」と思っている。故障も少なくなり、手放す時の下取り額もアップするのである。自動車に興味がない人もたまには自分の車を労い、整備・点検を怠らず、安心・安全なドライブを楽しんでいただけたらと思う。

北口 良晃

20180807

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