登山医学とは

第4回アジア・太平洋登山医学会/第37回日本登山医学会合同学術集会が、2017年6月3日(土)~4日(日)の日程で、長野県松本市のキッセイ文化ホールにて開催されます。

皆さん、登山医学というと何を思い浮かべますか?多くの方は山での怪我、病気、そして遭難を考えるのではないでしょうか。いいえ、登山医学とはもっと奥が深いのです。

欧米で登山医学が始まったのは、「人が高い所に行くとどうなるのか?」という単純な疑問からでした。そして、低酸素や生理学の研究者を中心に発展しました。血液ガスで有名な麻酔科医のSeveringhaus教授や、呼吸生理の大家West教授なども、登山医学の研究に携わっています。黎明期は非常にsophisticateされた(洗練された)学問だったのです。高所生理学は登山医学の本流として、現在も息づいています。

その後、分子生物学的・遺伝学的手法が導入され、まず高地肺水腫の遺伝子解析が進みました。これには私達の教室が深く関わり、世界的な評価を受けました。近年は、チベット族など高地民族の適応に関する遺伝子解析が隆盛で、一流の医学雑誌に多くの論文が発表されています。

一方、多発する山岳遭難を受け、山岳救助やファーストエイドも登山医学の重要なテーマになりました。国内外で“認定山岳医”が養成されているのは、安全な登山の確保に少しでも貢献しようという国際的な潮流があります。

この他、2020年に東京五輪が開催される影響もあり、高所トレーニングやスポーツクライミングも登山医学で扱う領域として脚光を浴びています。特に、スポーツクライミングは日本人のメダル獲得が期待される種目であり、今回の学術集会で初めてメインテーマに取り上げました。

日本登山医学会からは、近々に「高山病と関連疾患の診療ガイドライン」が発刊されます。このガイドラインでは、高山病のみならず、低体温症や熱中症・脱水症、心肺蘇生など幅広いテーマを取り上げており、登山に関係する医療従事者のみならず、一般医家にとっても有用な情報を提供しています。

登山医学の奥の深さと、様々な研究やフィールドワークを行っている日本登山医学会の姿がお分かりいただけたでしょうか。ご興味のある方は、ぜひ6月の合同学術集会を覘いてみてください。そして、近い将来、ご一緒に活動できたら嬉しい限りです。

花岡 正幸

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