~前略 山の上より~

下界のみなさま、おはようございます。
煙たなびく浅間のむこうから強烈な陽光が立つと、わが身後ろの槍ヶ岳もその穂先がオレンジ色に反射して輝き、あたり一面が金色に染まります。
さっきまで星空だった群青の天もゆるゆると色が鮮やかになっていきます。
朝5時前、ひんやり冷たい、でもやさしい空気に包まれて、私は立ち尽くすばかりです。

人はなぜ山に登るのでしょう?そこに山があるからさ、とわかったようなわからないような問答がありますが、それはさておくとして・・・

標高2857m、松本からもよく見える常念岳の右側のへこんだ部分、2450mの常念乗越に信州大学常念診療所が夏季限定で開設されます。
おとなりの常念小屋はハイシーズンの週末、300人以上の登山客を受け入れます。ひとつの村と言っても過言ではないでしょう。当然具合が悪くなる方もおられます。
私も少しだけ参加させて頂いている常念診療所のスタッフは山に登って、それだけでも疲れるのにさらに仕事するわけです(もちろん患者は夜中も来ます)。
そう、なぜ山に登るのでしょう、どころではありません。なぜ山に登ってまで仕事をするのでしょうか?という話です。
山が本当に大好きだからという方もいるでしょう。しかし私はそんな逞しさも気力もないただの医者です。
昨日も山岳部の学生なら4時間もかからない登山道を6時間以上もかけて死ぬ思いで登ってきました。下手するとミイラ取りがミイラになるように、自分が患者になってしまう寸前です、シャレになりません。山岳部の学生さん、先輩医師の皆様すみません。
自分でもよくわからないのですが、そんな山の診療所には医療の原点があるような気がするからだとは思っています。
専門外の患者も来る。資材も豊富ではない。自分も疲れている。

でもなんとかしてあげたい。
そんな気持ちが自分にある。それを確認できるような場所です。

あと、そんな場所の酒は、下界で飲むどんな美酒よりも旨いです。
現場からは以上です。

staff-column

堀内 俊道

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