JR中央西線からの眺めは最高だ

以前のこの欄に似たタイトルの秀逸なコラムが掲載されていたのをご記憶の諸兄も多いと思う。張り合う気は毛頭ないが、中央西線がちょっと可哀そうなので書いてみた。

中央西線の景色は名古屋から信州に向う方(下り)が見事である。“ワイドビューしなの”で指定席を取る場合はA席がお勧めだ。名古屋を出発した列車はしばらく濃尾平野を突き進んでいく。高蔵寺を過ぎた辺りから山間部となり、古虎渓を走りぬけ岐阜県へ入る。恵那の辺りまでくると右手に“恵那山”が迫り、天気が良ければ左手に“御嶽山”が遠望できる。中津川の先、落合川から木曽路に入り、列車は木曽川に沿って進む。しばらくは、左手に木曽川を見下ろし、山肌を縫うように走る。読書ダムを経て大桑発電所に至る辺りから上方に目をやると“南駒ヶ岳”の雄大な山容を眺めることができる。ほどなく須原に至るが、ここには木曽の名刹定勝寺と、「木曽の桟」で有名な西尾酒造がある。上松町に入り小さなトンネルを抜けると天下の名勝「寝覚の床」が眼下に広がる。浦島太郎が釣り糸を垂れ、余生を過ごしたという逸話は本当だろうか。以前は“しなの”の車内でもアナウンスがあったが、今はない。ほどなく木曽福島に到着するが、ここには「中乗さん」の中善酒造と「七笑」の七笑酒造の2つの酒蔵がある。毎春、蔵開きのイベントを開催するので、訪ねてみるとよい。木曽福島の次、原野辺りからは右手に中央アルプスの主峰“木曽駒ケ岳”の雄姿を眺めることができる。そろそろ木曽川とおさらばであるが、源流の里が木祖村であり、藪原には「木曽路」で知られる湯川酒造がある。私のお気に入り、「十六代 九郎右衛門」もここの酒蔵だ。分水嶺の鳥居トンネルを抜けると左手に奈良井宿が広がる。漆器の里木曽平沢、関所跡が見える贄川を過ぎると木曽路も終わりに近い。洗馬から桔梗ヶ原にさしかかると急に視界が開け、左手に“穂高岳”の岩稜を遠望することができる。晴れた日の穂高の眺めは最高だ。ほどなく“ワイドビューしなの”は塩尻駅に滑り込み、中央西線の旅は終焉を迎える。

とにかく木曽路は山また山の連続である。前山に隠れて“御嶽山”はほとんど姿を見せないが、一瞬その威容を現すポイントがある。中央西線に乗る機会があれば、ぜひ探してみてもらいたい。

花岡 正幸

一覧へ戻る