第100回全国高校野球選手権記念大会の個人的感想

今年の 夏の甲子園 は記念すべき第100回の大会で、出場校56校55試合で戦われた。頂点に立った大阪桐蔭高校は全国3781校の頂点に立ち、史上初の2度目の 春夏連覇 を達成した。その最後の対戦相手であった秋田県立金足農業高校も史上初の東北勢優勝を賭けた戦いであった。その秋田県は第一回大会でも準優勝(秋田中学)しているというから不思議な巡り合わせである。高野連会長の講評で「高校野球のお手本」と賞賛された“雑草軍団”金足農業 vs. “最強のエリート集団”大阪桐蔭の試合は得点結果以上の見応えのある決勝戦だった。そして大阪桐蔭高校は初の 2代目 深紅の大優勝旗 を手にした。
高校野球なので、将来のプロ野球選手候補を何人も抱える大阪桐蔭高校よりも金足農業高校の勇戦が評価されるのは致し方ないであろうが大阪桐蔭高校の硬式野球部に入るだけでも大変で、そこでレギュラーを獲り、全国のチームからマークされてもそれを跳ね返すだけの練習をし、技術を磨き史上初の栄誉を勝ち取った大阪桐蔭高校の選手達も同様に評価賞賛したい。

さて、史上初といえば、我が県代表である佐久長聖高校と旭川大高の試合も甲子園史上初のタイブレークによる決着となった試合であった。タイブレーク制は今年の春の選抜高校野球大会から導入されたがそのときは適用なし。タイブレークは一般に先攻チームよりも後攻チームの方が有利とされるが先攻であった佐久長聖は結局エラーなしの試合運びで5-4の勝利を得た。最終回延長14回裏の旭川大高の無死一、二塁からの攻撃を一点以内に抑えなくてはならない場面で打者のサードゴロで二塁走者が封殺、その後ダブルプレーでスリーアウト。14回表の一点もバッターのダブルプレー崩れの間に取った1点であり、まさに紙一重の試合であった。賛否両論あると思うが近年の選手の健康管理の観点から導入されるに至ったタイブレークが今大会では、これまでの大会では見ることのできなかった新たなドラマを生んだと思う。佐久長聖高校は次の2回戦で富山県代表の高岡商業に敗れたが、この試合も9回表に1点返して、あと一歩 まで高岡商業を追い詰めた。その高岡商業は3回戦であの大阪桐蔭に1-3と善戦。佐久長聖高校の野球部の選手達にもお疲れ様のエールを送りたい。

今大会で個人的に最も注目したのが愛媛県代表の済美高校の活躍である。済美高校は今大会、私の知る限りどの報道も優勝候補とかスーパースターの存在などの評価をしていなかった(私もその一人である)。しかし蓋を開けてみれば、堂々の快進撃。途中ラッキーチームというような評価も見かけたが、対戦相手は西千葉代表中央学院、石川県代表星陵、高知県代表高知商業、東兵庫代表報徳学園と、強豪、名門、優勝候補などと評されるチームを倒しての結果である。決してラッキーだけでは勝てない相手ばかりである。
準決勝で大阪桐蔭に敗れた試合までのすべてが感動的であったが、白眉の試合はこれも大会史上初となる逆転満塁サヨナラホームランで劇的幕切れとなった2回戦の星陵高校との激闘だと思う。そのホームランを打った矢野選手自身もファールと思っていったんはバッターボックスに引き返そうとするライトポールを直撃する、ドラマとしか言いようのないホームラン。「高校野球はすごい!高校生はすごい!」と普通の人なら即座に言い表せない感動を絶妙に伝えた実況アナウンサー。しかもそれは延長13回のタイブレークでの出来事だ。13回表に2点を取った星陵高校は、「よし、この回1点以内に抑えるぞ」と意気込んだと思う。相手投手の2年生、寺沢投手も12回裏は1アウト満塁、このピンチを2者連続三振。素晴らしい度胸でボールを投げ込んだ。まさにこれぞ高校野球という試合だった。
私が最も感動したのはその済美高校のエース、山口直哉投手である。愛媛大会5試合(520球)、甲子園で5試合(607球)を投げた。報徳学園戦で5回途中から継投で出場した以外、マウンドを独りで護りきった。171cm、67kgと野球選手としては小柄な体格。しかしストレートの球速は最速で144km/hr、コントロールもよく、甲子園で607球投げて四死球は9。大型投手をよそに、淡々と一生懸命にコースに投げ分け三振をとる姿に久しぶりに高校野球に感動を覚えた。済美高校の選手達は大会後、9月に行われるU18 アジア野球選手権大会の選手には誰一人として選出されておらず、まさに全員野球で勝ち取ったベスト4、選手全員がヒーローだと思う。今回の高校野球は第100回記念大会であり、最近になく注目していたが、済美高校の活躍で、久しぶりに高校野球の楽しさを再確認した次第である。

この感動をあたえてくれたすべての高校野球選手、チームに感謝したい。野球は唯一かどうかは判らないが、試合に出ている選手達が全員打席に立つことができる。ほぼ平等に打席に立ち、ヒットを打つチャンスが与えられる。身長や体重も極端に影響しない。試合中には 静と動 両方の要素があり、とっさの機転、判断が要求される場面、時間をかけてゆっくり試合展開を考えなくてはならない場面が交錯する楽しいスポーツである。
近年は子供達の野球離れが現実化しており、少年野球や中学野球もチーム数が減少しているが、その裏で野球の楽しさを再び広めようとする活動も盛んになってきており、少しずつ芽を出し始めていると思う。地元の高校野球の選手達の活躍をみて子供達が野球を楽しいと思ってくれることを願う。
(野球の公式記録や公式見解と異なった記載があった場合は、素人の個人的見解としてご容赦下さい)

安尾 将法

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