小沢陽子先生の論文がacceptされました。

2010年に高井らが、Thrombocytopenia(血小板減少症), Anasarca(全身浮腫、胸腹水), Fever(発熱、全身炎症), Reticulin fibrosis(骨髄の細網線維化), Organomegaly(臓器腫大;肝脾腫、リンパ節腫大)を呈した症例を報告し、TAFRO症候群という概念を初めて提唱しました。リンパ節の病理はCastleman病様の像を呈し、ステロイドやcyclosporin Aなどの免疫抑制剤、tocilizumab, rituximabなどの有効例が報告されていますが、病状の進行が急速で重症例も多いため、迅速かつ的確な診断と治療が必要な疾患です。

当科で初めて経験したTAFRO症候群の症例は上記のTAFROを全て満たし、重症かつ急速な臨床経過を示しましたが、高橋秀和(現:諏訪赤十字病院)先生、小沢陽子先生が中心になって集学的な治療を行い、独歩で軽快退院されました。典型的なTAFRO症候群と思われたのですが、同症例がこれまで報告された症例と異なったのは、特徴的な前縦隔病変を呈していたことです。小沢陽子先生が、当院高度救命救急センターで研修したときに主治医を務めたTAFRO症候群の症例を振り返り、今回と良く似た前縦隔病変がみられたことに気付きました。2例とも全く同様に、胸部CTで前縦隔に脂肪濃度の中に軟部濃度が混在した腫瘤影が認められました。高度救命救急センターの症例はリンパ節生検が行われCastleman病様の像が認められましたが、縦隔生検は未施行でした。当科の症例は、リンパ節生検は未施行でしたが、外科的前縦隔生検が行われました。病理組織では脂肪壊死とリンパ球、形質細胞など炎症細胞浸潤、線維化が認められ、機序は不明ですが、前縦隔の脂肪織もしくは胸腺の炎症、あるいは免疫学的反応による変化と判断しました。

“新規疾患;TAFRO症候群の疾患概念確立のための多施設共同後方視的研究”へ症例の登録を行ったことがきかっけになって、高橋秀和(現:諏訪赤十字病院)先生、小沢陽子先生、私の3名が難治性疾患政策研究事業「新規疾患;TAFRO症候群の確立のための研究」班の研究協力者となりました。2016年の班会議ではTAFRO症候群の病理組織に関する検討が行われ、我々も同症例の縦隔組織を提出しました。主にリンパ節の所見について検討が行われましたが、提示された全症例の中で最も小さなリンパ節は何と我々の症例のものでした。外科的縦隔生検を行った際に不随的に採取された直径約3mmの縦隔リンパ節は、他の症例と同様にCastleman病様の像を呈していました。班会議の会場で初めて、同症例は病理学的にもTAFRO症候群と診断されました。Behcet病で前縦隔の脂肪濃度が上昇する症例が存在することが報告されており、同疾患と同様にVEGFの関与がいわれているTAFRO症候群でも、この前縦隔病変と何らかの因果関係があることが推察されました。

小沢陽子先生が特徴的な前縦隔病変を呈したTAFRO症候群の2例として論文を投稿し、検索した範囲において世界初の2例としてRespir Investig.にacceptされました。臨床で経験したことを英語論文として報告していくのは、世界中の臨床医および患者さんのためにも非常に重要なことだと思います。2例に連続してみられた事象は貴重な事実で、症例と真摯に向き合って、見過ごさないで気付いたことが素晴らしいと思います。初めての英語論文としては良い結果だったのではないでしょうか、おめでとうございます。

山本 洋

一覧へ戻る